◆プロフェッショナル vol.4 『ロボットから人間になったプロフェッショナル』

たくさんのお客様と接するようになり、それなりに契約も取れるようになってきた。でも何かが足りない。そんな思いでずっと過ごしてきた。
私の接客には「遊び」がないことがわかった。自己開示もしないし、雑談もしない。つまるところお住まい探しの話しかしていなかった。上司からの指示は「冗談を言え」「笑わせろ」「自己開示をしろ」。この3つに絞られた。ピンとこない指示だった。
家を探しに来られているお客様に対して、なぜ冗談を言わなければならないのか、自分のプライベートな部分を明かさなければならないのか理解できなかった。私が顧客なら、店員が目的と関係のない話をしてきてもまったく興味が湧かない。むしろ的確に商品の説明をし、情報を与えてくれるほうがありがたいと感じるのだが、どうも普通はそうではないらしい。
巷で話題の雑談に関する書籍を読み、お客様を笑わせるために漫才を研究した。挙句の果てには落語のマクラを覚えてそのまま接客に混ぜ、冗談の代わりにした。なんとか指示通り笑わせるように努力し、自己開示トークを入れやすい会話の流れもつくった。
実際にやってみると、たしかに反応が少し変わったように感じられた。お客様の警戒心が減り、関係性の構築にかかる時間が短くなり、面談数が少ないお客様にも突っ込んだ質問ができるようになったように思う。そうして数字は順調に上がっていった。実はこの笑わせることと自己開示以外、これまでと大きく変えたところはない。以前に比べて特別長く働いたわけでもない。ただ、これまでの上司から受け取ってきたものが、歯車が噛み合うようにうまくハマっていったような感覚だ。しゃべれないうえに他人の気持ちがわからない「ロボット」のような男が、人を知り、自らも「人間」らしくなり、お客様に少なからず影響を与えられるようになったのではないだろうか。